有機EL討論会設立10周年を迎え、次の10年に向けての提言
2005年に有機ELの研究開発に携わる大学・研究機関の研究者及び企業の技術開発者19名が発起人となって発足した有機EL討論会は、その設立の目的を「設立趣意書」としてまとめ、この趣旨に沿って運営してきました。発足から10年が経過した現在、我が国の有機EL産業を取り巻く環境は大きく変わり、その変化を踏まえて有機EL討論会がこれからの10年を展望してどのような役割を担っていくべきなのか、そのためにどのような運営をしていくべきかを改めて問い直す時期だと考えます。昨年来、数度にわたって運営委員の中で、このことについて真剣な議論を重ねてきました。その議論を通して委員の総意が纏まってきましたので、ここに提言として文書化させて頂きます。
まず会の発足時点に設定した「設立趣意書」は、我が国の有機EL産業の国際的競争力を高め維持していくために「従来組織を超えた学術的な研究活動と実践的技術開発活動の結合」が必須であり、大学等研究機関の研究者と企業の開発者の間の技術交流と熱心な討論を可能とする場として有機EL討論会を設立すると述べています。10年を経過した現在でも、このことの重要性は変わっておらず、従って「設立趣意書」の精神を今後もしっかりと維持していくべきであり、この精神に沿って有機EL討論会の運営を行っていくこととします。ただ、ここでしっかりと再認識すべきは「我が国の有機EL産業」をパネル、材料、部材、装置、そしてそのアプリケーションまで含んだ大きな視点で捉える必要があるということです。
この目的に沿って今後有機EL討論会をどのように運営していくかについては、時代・環境の変化を踏まえて適切に対応していくことが必要です。かつて我が国は有機ELの学術的研究及びその実用化開発において世界をリードしてきました。そのような状況を再度復活させたいという強い思いから有機EL討論会を国内だけの閉じた会として運営する道をとってきました。しかしながら現在の有機ELディスプレイ・パネル産業を牽引しているのは韓国であり、また台湾・中国がそれに追いつくべく開発・事業化のための投資を加速しています。従って国内の有機EL材料、部材、装置などの企業は国内のパネルメーカーの声だけを聞いていては事業の展望を描けなくなってきています。即ち、我が国の有機EL産業を強化していくという目的のために、有機EL討論会を国内だけの閉じた会として運営していくことが適切でなくなってしまっているのです。
そこで、有機EL討論会を海外に広く門戸を開き、オープンな場としていくことを決定しました。具体的には会員資格細則に規定している「日本に製造・開発拠点を有する企業法人に属する正規の構成員、または客員研究員であること」の部分を撤廃し、日本に拠点を持たない企業の方たちにも広く門戸を開くこととします。また、これと同時に賛助会員の資格などを含めて会員資格細則全般に関する見直しを、運営委員会内に「細則見直し小委員会」を設置して実行します。
このように有機EL討論会をオープンな場にすることにより、大学の研究者にとっては学術的な討論の場としての価値が高まり、また海外の有機EL関連企業の技術課題を知りそれを自らの研究に生かすことができるようになります。有機EL材料、部材、装置関連企業にとっては、まさに国内に加えて海外の顧客のニーズを把握できることとなり、有機EL討論会へ参加することの魅力度が上がります。有機ELパネルメーカーにとっても、切磋琢磨すべき海外企業との交流は得るものの方が多いことは間違いありません。
さて、このような運営方針の見直しを実行するに当たって、有機EL討論会を次の10年どのような姿にしていくことを目指すのかについて明確にしておきたいと思います。
有機EL産業の発展のためには有機ELの未来の方向性を理解することが最も重要であり、従ってそれに必要な科学技術課題や解析技術を明確にしていくことを目指したいと思います。このためにはアカデミックとインダストリーにおける有機ELの現状認識が不可欠であり、それをワールドワイドな視野に立って国際的に議論が出来る場にしていきたいと思います。また、デバイス・プロセスまでで無く、そのアプリケーションまで含めて議論ができるようにして、参加する会員が有機EL討論会に参加することによって、自らの専門分野を超えて有機ELの全体像を把握できる場にすることを目指したいと思います。このように有機ELという切り口で、最新の基礎研究から実用化開発技術及びアプリケーションまでの全体像が把握できるユニークな学会、MRSでもSIDでも応物学会でも得られない体験が出来るユニークな学会として、国際的にも評価される学会にすることを目指そうではありませんか。
平成28年3月21日
有機EL討論会代表 占部哲夫